「静岡から世界へ」—地域企業と共に挑む、
マレーシアで“行列ができる”人気店づくり
【元年堂 代表】 野口亮 氏
マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供しながら日本文化の企画展示会スペースを備える店舗「元年堂(がんねんどう)」。静岡の十割そば屋「元年堂」の海外一店舗目として2024年9月にオープン。日本企業やローカルの人々とのコラボレーションイベントなどを多数行い、リピーターを増やしながら『ここでしか味わえない日本の「体験」と「感性」』を発信しています。
今回は、CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD.の発起人・社長の野口亮氏に海外経験ゼロからのマレーシア進出について、お話を伺います。マレーシア初の十割そば屋「元年堂」の海外展開を決めた背景、マレーシア市場を選んだ理由、いかにしてスピーディーな開店を実現したのか、客足の絶えないお店に成長させたマーケティング戦略、今後のグローバルビジョンについて語っていただきます。

Culture Link Malaysia. Sdn.Bhd
元年堂の運営母体。マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供する元年堂を運営しつつ、日本企業やアーティストなど日本文化、日本の作品を展示する“ギャラリースペース”を併設。海外進出支援やテストマーケティングのサポートを行っている。
登場人物
野口亮(RYO NOGUCHI)
CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD. COO/代表取締役社長
1988年生まれ、埼玉県越谷市出身。
・株式会社シード 経営企画室 コーディネーター
・株式会社シードプラス 取締役
・日本出版販売株式会社プラットフォーム創造事業本部 アドバイザー
静岡県移住に伴い2022年よりシードへジョイン。
ーまずは、自己紹介をお願いいたします。
野口:
株式会社シード経営企画室 兼 CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD.代表の野口亮と申します。
世界で稼ぎ、日本の地域に還元する:株式会社シードの使命
ー早速ですが、シードという広告代理店が、そもそもなぜマレーシアに事業を展開することになったのか、その背景をお伺いしたいです。
野口:
シードは静岡県東部を中心に今年で40年を迎える会社です。広告代理店業から内装設計や商業施設の運営、町づくりといった領域まで幅広い事業を手がけてきました。会社として「地域活性化」を長年のミッションとして取り組んできましたが、少子高齢化という課題に直面し、地域経済の停滞は避けられない状況になっています。地域経済の発展のためには「外貨を稼ぐ」こと、つまりグローバル化の必要性を強く感じてきました。このような背景から、シードは以前から「世界企業」という宣言をしていました。
ー数ある事業の中から、海外展開の事業として「元年堂」を選んだのはどのような理由からだったのですか?
野口:
海外に展開する事業を検討する中で、まず元年堂が持つ、特定の場所や職人に依存しないそばの生産体制に注目しました。この仕組みのおかげで、海外でも日本と変わらない安定した高品質のそばを提供できると判断し、まずは元年堂を海外事業の足がかりにしようと考えました。
ただ、私たちだけで海外にお店を出し、そこで売上が上がっても、それだけでは地域のためになりません。そこで、静岡の地域を盛り上げているキープレイヤー、例えば静岡放送さんや、静岡の商業施設を運営している会社さん、マーケティング会社さんといった、静岡にゆかりのある企業に声をかけ、出資していただいて、海外法人を設立することにしました。
こうして皆で一緒に事業を作り上げることで、シードだけの利益ではなく、地域に根差している企業さんと一緒に利益を分かち合うことができます。加えて、事業の成果や取り組みをメディアを通じて広く発信したり、得られたマーケティングデータを他の事業にも活用することで海外進出を検討していくことも可能だと思います。こうした地域への循環を考え、この座組みで海外に進出することを決めました。
静岡から世界へ 「日本文化を輸出する」新会社「マレーシア初の十割そば」と「日販・文喫が企画する日本文化空間」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000130255.html
ー外貨での稼ぎを地域に還元するというのは画期的な取り組みですね。進出先にマレーシアを選んだのはなぜでしょうか?
野口:
親日性、経済的・地理的な優位性、そしてマーケティングの可能性という3つのポイントでマレーシアを選びました。まずは、この事業では「日本の文化を輸出する」というスローガンを掲げていたので、親日国であることを重視しました。次に、投資先として優秀か、将来性があるかという観点です。マレーシアはシンガポールに次ぐASEANで第2位の経済規模であり、経済成長率も比較的安定しています。地理的に見てもASEANの入り口にあるため、マレーシアを起点にASEANへ拡張していくイメージが持てました。そして、テレビなどのマスメディアの影響力が日本ほど強くない市場特性があるため、SNSマーケティングの力で成果が出せる市場だと感じたからです。
9ヶ月という急ピッチで元年堂・マレーシア店をオープン
ーシードの強みであるマーケティング力を活かせる市場というのも重要なポイントだったのですね。マレーシアでのプロジェクトは、動き始めてからお店が開店するまでにどれくらいの時間がかかったのですか?
野口:
約9か月です。「元年堂を海外に展開する」という方針が固まり、現地視察に行ったのが2024年の1月です。その後、2024年4月に物件探しを始め、2024年9月にお店をオープンしました。
ーマレーシアで1年も経たずにオープンしたのは、異例のスピードではないですか?
野口:
周囲からは「ダントツで早い」と言われますね。通常マレーシアで事業をする人は「何月何日オープン」とは前もって言わないらしいんです。工期の遅延が頻繁に起こるからだそうですね。でも、私たちは自分たちを追い込むために、2ヶ月前に「9月12日に必ずオープンする」と宣言したんです。それを目標に、なんとしてでも納期だけは守りたかった。実際にはスケジュールはかなりタイトで、申請手続きと工事のスケジュールをギリギリまで調整しながら進めました。現地の状況を考慮すれば、もっと余裕を持たせた方が良かったのかもしれませんが、今回は日本式のスケジュールで一気に進めた形です。結果的には、強行して良かったと思っています。
ー日本とは商習慣の異なるマレーシアで、どのようにしてスケジュール通りにオープンまで漕ぎつけることができたのでしょうか?
野口:
大雑把なスケジュールではなく、2日程度のバッファを持たせながら細かくスケジュールを切っていきました。元年堂では9月12日オープンを目標としていたので、ライセンス申請に必要な書類を提出するために、遅くともその2週間前には厨房を完成させ、政府に写真を提出する必要がありました。そのため、店舗全体がまだ完成していなくても、厨房だけは優先的に仕上げるように指示を出すなどの工夫を行いました。申請手続きと工事のスケジュールを綿密に調整しながらスケジュールを刻み、進めていった感じですね。
ーオープンされてから苦労された点はありますか?
野口:
沢山ありました。一番苦労したのは、人材確保ですね。ローカルスタッフを安定的に確保するのが非常に難しく、苦労しました。店長も、本来なら売上を伸ばすことに集中したいところでしたが、日々の店舗運営業務に追われてしまい、なかなか手が回らない状況が続いてしまいました。
次に、店舗の立地の問題です。私たちはマレーシアではまだ馴染みの薄い「十割そば」をメインの商材としていたため、現地の市場での受け入れられ方が全く読めませんでした。そこでまずはリスクを抑えることを優先し、家賃が比較的やすい場所を選んだのですが、結果として人通りの少ない場所になってしまい、集客に苦戦しました。
それから、ライセンス取得もかなり大変でしたね。申請から許可が下りるまで数ヶ月かかるため、予定通りにライセンスが発行されるのかという心配が大きかったですね。
インフルエンサーマーケティングを起爆剤に、行列の絶えないお店へ
ーオープンから約9ヶ月経ちましたが(2025年5月での取材)、現在のお店の状況はいかがですか?
野口:
オープン当初は集客に苦戦しましたが、現在は予想を大幅に上回るお客様にご来店いただいています。週末は100名ほどのお客様をお断りせざるを得ない状況で、現在はご予約のお客様のみのご案内とさせていただいています。嬉しい悲鳴なのですが、スタッフが疲弊してしまっているため、週に一度の休業日を一時的に設けることにしたほどです。
ー集客が成功した要因はどこにあるとお考えですか?
野口:
今までの取り組みが多面的に影響し合い集客の成功に繋がったと考えていますが、一番の起点となったのはインフルエンサーマーケティングです。
マレーシアではSNSが非常に活発なので、SNSプロモーションチームを立ち上げ、店長や私、現地の大学に通うインターン生とチームを組み、集客に繋がる施策について仮説を立て、検証を繰り返しました。その中で、最も効果があったのがインフルエンサーマーケティングです。
特に一般的に重視されている再生数やコメント、滞在時間だけでなく、「シェア率」を重視した点が集客に繋がった大きな要因だと考えています。マレーシア市場の特性として、良いものはシェアされる文化があることに着目しました。
そばや天ぷらの作り方、そば湯の楽しみ方などをリールで紹介していただき、シェア数は7,691件
ーインフルエンサーの選定が鍵になりそうですが、具体的にどのように選んでいったのでしょうか?
野口:
まず、動画の再生回数に対してどれだけシェアされているか、つまり「シェア率」が高いインフルエンサーを探しました。その上で、日本の文化に興味を持っていて、現地の日本人コミュニティにも積極的に関わっているような方を中心に、約30名ほどリストアップしました。最終的に、その中から特にシェア率が高かった上位3名の方にお声がけをしました。実際に、その方たちの投稿は、本当に多くの人にシェアされて、あっという間に情報が広まっていきました。これは、マレーシアではよくあることなのかもしれませんが、改めてシェア率の重要性を実感しましたね。
ーシェア率に注目されたのは興味深いですね。現在のお店の売上状況についても教えていただけますか?
野口:
元年堂は、静岡県三島に2店舗あります。日本にある「元年堂」の店舗は黒字化していますが、マレーシアの店舗は、今のペースでいくと月間の売上で日本の店舗を上回る勢いです。
一時的と思われますが、この状態が1ヶ月近く続いていますし、webのアクセスも施策前の1.3倍をキープしていて、非常に良い状況だと捉えています。
ー野口さんは、マレーシアにはどのくらいの頻度で行かれているのでしょうか? また、日本にいる間は、どのように現地の方とコミュニケーションを取られているのでしょうか?
野口:
企画展示のサポートと、スタッフとの直接的なコミュニケーションを取るため月に1度は必ず行っています。直接会ってコミュニケーションを取るのは月に1度ですが、毎日のようにチャットでやり取りをしていますし、週に1回はメンバーミーティングもやっているので、全体としては上手くコミュニケーションが取れていると感じています。
海外経験ゼロからでもOK!マレーシアで一歩、踏み出そう
ー事業が大きく成長していますが、野口さんはこれまでに海外ビジネスの経験があったのでしょうか?
いいえ、実は海外でのビジネスは初めてで、英語も全く喋れない状態からのスタートでした。でも、以前から投資家の方々にお話ししていたビジョンが、今こうして現実になっている。それが本当に嬉しくて、毎日がとても楽しいんです。
ー具体的に、どのような点に楽しさを感じていますか?
これまで元年堂で展示してくださった方々が、心から喜んでくださっている姿を見ることができた時ですね。皆さん、「元年堂」をきっかけに、いろんな世界に羽ばたいて行かれている。それを見るのが、何よりも嬉しいし、楽しいですね。
例えば、シヤチハタさんは元年堂での展示開始からわずか2日後に別の場所からのオファーがありました。ezuさんも、ここでの展示をきっかけに中国やシンガポールでの出展も決まったと伺いました。
「グローバル化」と聞くととてもハードルの高いことのように感じるじゃないですか。でも、実際にやってみると意外なほどにシンプルに、そしてダイレクトにその最前線に飛び込めるんだ!ということに驚きと面白さを感じています。
ー今後のビジョンについても教えてください。
野口:
マレーシアで実際に店を運営しているからこそ、お客様と直接触れ合い、リアルな声やデータを集めることができる。これが、他の海外進出支援会社にはない、私たちの大きな強みです。
だからこそ、今後はさらに海外進出支援、特に地方企業様がより手軽に海外に進出できるよう体制を整えていきたいです。短期的な目標としては、直営店は地元のお客様に愛されるお店として維持しつつ、企画展示会スペースを多くの企業様にテストマーケティングの場として活用していただき、その事業を拡大していくことです。
そして3年後には、現地の企業様へのフランチャイズ(FC)展開も視野に入れ、「元年堂」のブランドを通してローカルの方々が日本のそば文化を広げていくお手伝いができればと考えています。
さらに、多くの企業様はマレーシア以外の国への進出も考えていると思いますので、私たちも今「カルチャーリンクマレーシア」として活動していますが、「カルチャーリンク台湾」「カルチャーリンクハワイ」「カルチャーリンクベトナム」といった構想も進めています。3年から5年後には、世界中で事業展開のサポートができる体制を構築したいと考えています。
ー最後に、これからマレーシア進出を考えられている方へのメッセージをお願いします。
野口:
まずは、現地に来ていただくことが大事だと思っています。マレーシアの若いエネルギーや活気のある雰囲気を感じていただけると思います。実は、日本からマレーシアまでは東京から大阪に行くくらいの価格で簡単に行けてしまいます。宿泊費についても、一泊3,000円ほどでジムやサウナ、プール付きの1LDKのコンドミニアムに泊まれるんです。
大阪や福岡への出張よりも安く海外に行けると考えれば、一度行ってみようと思える方も多いのではないでしょうか。我々は2泊3日で観光地やローカルの人々、バイヤーとの交流をパッケージ化した海外視察サービスも提供していますので、お気軽にお声がけいただけたら嬉しいです。まずは現地に足を運び、ぜひご自身の肌でマレーシアを感じてみてください。
ーありがとうございました。
海外進出をご検討されているものの、具体的な進め方が不明確なお客様へ。
弊社では、マレーシアにてそば店運営とテストマーケティングが可能な企画展示会スペースを運営しており、会計やマーケティング、店舗開発のスペシャリストを集めた専門チームがお客様の課題解決を支援いたします。
👉 「マレーシア進出を成功させるための無料相談はこちらから!」(問い合わせフォームへリンク)

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