地方から世界へ。
創業40年の会社が海外初進出。
【元年堂 会長 西島英弘 氏】
マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供しながら日本文化の企画展示会スペースを備える店舗「元年堂(がんねんどう)」。静岡の十割そば屋「元年堂」の海外一店舗目として2024年9月にオープン。日本企業やローカルの人々とのコラボレーションイベントなどを多数行い、リピーターを増やしながら『ここでしか味わえない日本の「体験」と「感性」』を発信しています。
今回は、CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD.の親会社である、株式会社シードの代表取締役社長である西島英弘 氏にお話を伺います。海外展開を成功させるための経営者としてのポイント、海外ビジネスの魅力とリスク、今後を見据えた想いなど、これまでとこれからを語って頂きます。

Culture Link Malaysia. Sdn.Bhd
元年堂の運営母体。マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供する元年堂を運営しつつ、日本企業やアーティストなど日本文化、日本の作品を展示する“ギャラリースペース”を併設。海外進出支援やテストマーケティングのサポートを行っている。
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登場人物
西島英弘(NISHIJIMA HIDEHIRO)
・1980年生まれ、静岡県伊豆の国市出身
・趣味は釣り・料理・食べ歩き・飲み歩き
・株式会社シードの代表取締役社長 兼 CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD. CEO
ー静岡新聞社・静岡放送で企業営業を経て、2012年よりシードへジョイン、2020年より現職。
ーまずは、自己紹介をお願いいたします。
西島:
株式会社シードの代表取締役社長 兼 CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD. CEOの西島英弘です。
大学では都市計画を専攻し、街づくりやインフラ整備、特に道路計画を中心に勉強していました。実は、道路とかインフラがしっかりしているかどうかは、街の成り立ちにすごく関わってくるんです。面白い研究では、飲酒運転や交通事故を減らすための標識やサインの効果とか、渋滞の原因なんかも調べていました。
その後、2005年に静岡新聞社・静岡放送に入社し営業を担当しつつ、浜松・東京でメディアとマーケティングの勉強をして、2012年ごろにシードにジョインしました。最初は企画推進室からスタートし、営業を経験、役員就任後は経営全般の仕事も少しずつ任されて、2020年に代表取締役に就任しました。
マレーシアの魅力と可能性とは
ー数ある海外市場の中で、なぜマレーシアに進出しようと決めたのですか?マレーシア市場の魅力・可能性についてお聞かせください。
西島:
マレーシアにしようと思ったきっかけは、シードプラスという会社で一緒に仕事をしている平岡さんがマレーシアに住んでいたこともあり、CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD.の取締役である大石さん、社長の野口くんと視察に行ったことで、現地の空気を感じたことが出発点です。アジアの中でも活気があり、とても良い場所だと肌で感じました。
その後デスクリサーチをしてみたところ他国では現地資本の比率が求められるところも多く自由度が低いのですが、それとは違い自由度も高く、マレーシアは海外戦略の起点にするには最適だと感じました。視察に行った際に街中に人が溢れていて、平日の昼間でも若者が商業施設で活動している様子を見て、市場性の高さを実感しました。日本と比べるとその違いは顕著で、成長性のある市場だと確信しました。
ーマレーシアで現地法人を設立し事業を立ち上げる際、直面した課題などを具体的に教えて頂けますか?
西島:
現地法人の設立自体は、幸運にも現地で会計事務所を経営している日浦 氏(現在は、CULTURELINKMALAYSIAの会計顧問)との出会いがあり、比較的スムーズにできたと感じています。ただし、100%外資でやると決めたことにより手続きの難しさは痛感しました。
特に銀行口座の開設では、現地での信用がないためにスムーズに進まず、窓口対応や必要書類も多く日本のようにはいかないことに苦労しました。支払いに関してもトークン(振り込み時に、入力するワンタイムパスワードを生成する小さな機器 )の発行が必須になります。
トークンは日本には全く馴染のないものだし、マレーシアの独特な文化だけれども、これがあれば日本にバックオフィスを構えながらマレーシアでの店舗運営を行えるようになるのです。
それ以外では、特に物件探しに苦戦しました。
日本と同じ感覚で探そうと思っても、マレーシアではまず見つかりません。日本で商業施設に出店しようとするときは、運営母体やデベロッパーさんに問い合わせや連絡をすると思います。ただ、マレーシアの商業施設には運営母体やデベロッパーがなく、1つのテナントごとにオーナーさんがいて、オーナーさんとの交渉をしなきゃいけないんです。でも、オーナーさんの連絡先自体がそもそもわからないので、どこに連絡すればいいのかを探したり調べたり。内見するためだけの連絡を取ること自体に苦戦しました。
気になる物件があってもすぐに連絡ができないので、物件の前でひたすら通行人に声をかけたり、足を使って情報を得たりもしました。そうしたら、たまたま近くのテナントのオーナーさんから「ここは日本人はほとんど来ないから、辞めたほうがいい」なんて情報をくれたり。実際に現地に来なければ得られないような情報を得られたり、いい経験になりました。
あとは、やはり外資系企業ゆえに、現地銀行からの借り入れが難しいことも大きな課題だと感じました。このような法人設立に伴う外資ならではの制度的ハードルと文化的ギャップがとても大きいです。
そんな中、シードが掲げている「日本文化を世界へ」という意思を一緒に抱いてくれる静岡新聞社・静岡新聞放送社さんをはじめ、我々と一緒に商業施設を運営している会社さんにお声がけさせて頂きました。同じ志を持っているからこそ、資金調達の際や出資に関してもとても助けて頂きました。
ーなるほど、日本での起業とは全くが違う苦労があったのですね。
海外展開を成功させるための経営者としてのポイントは何でしょうか?日本国内ビジネスとの違いも含めてお聞きしたいです。
西島:
「品質を担保できたこと」が最大のポイントだと感じていて、日本とほぼ同じクオリティー・オペレーションを再現できたことが成功の鍵だったと思っています。そば粉の品質保持のために、窒素充填+アルミ二重包装という特別な輸送対策を取り、現地でも劣化のない美味しさを実現しました。あとは文化・宗教への理解と対応が重要。例えばマレーシアではハラール対応を意識したメニュー設計が必要ですが、売上予測が難しいため、綿密な現地調査が必要です。物件探しと同様、隣接店舗のヒアリングや現場観察による「足で稼ぐ」調査がとても大事です。
あとは何より、人材が「鍵」かなと。サービスレベルを維持するため、モチベーションの高い店長・スタッフの採用と育成に注力するべきだと思います。長く働ける人材を日本で研修することでエンゲージメント向上を図ったり。
日本は「モノを売るだけ」ではなく、居心地の良さ・おもてなしまで含めて提供する文化なので、機械だけではなく必ず人が介在しなくてはならなくて、その為に教育ってとても大事だと思うんです。
その教育をしてくれる推進力のある現地リーダーの存在も非常に重要。現地でバリバリ動いてくれる人物がいるかどうかで展開スピードが変わってきます。
海外飲食ビジネスのリアルとリスク
ー投資家の視点から見て、海外の飲食ビジネスにはどんな魅力とリスクがありますか?
資金調達や出資を募る際、重視した点などお願いします。
西島:
リスクとして、僕たちでも把握が難しいDBKLからのチェックが挙げられます。(DBKL:Dewan Bandaraya Kuala Lumpurの略。マレーシアの役所で飲食営業届けに限らずいろんなライセンス関係の取り締まりをしてる機関)
元年堂には居ないけれど、NRIC 番号(マレーシア国民登録識別カード番号)を持っていない「イミグレーション」の方が働いていたら、場合によっては営業停止になる可能性があったり。しっかりスタッフの管理もしなければ、こういったリスクを伴うこともあります。
あとは、資金現金管理について。
マレーシアはキャッシュレスがかなり浸透している文化だけれど、経営していくうえで現金は必須になります。例えば、アルバイトに現金を触らせると、売上金をすべて持っていかれる。なんて事が日本と比べてとても多いのが事実。そういった、日本ならばそこまで気にしなくいい事を、マレーシアでは注意する必要性が発生したりします。
ーやはり日本とは異なる事項が多々あるんですね。
では、マレーシアの「元年堂」の今後の展開計画について教えてください。
西島:
まずは、元年堂と同じクオリティを提供できる店舗をマレーシアに広げていきたいです。このビジネスは、誰でも作れる、いわゆる職人要らずで提供できるビジネスモデルなので拡大も可能だとも考えています。
もう一つは、ローカル化を考えています。マレーシアはイスラム教の国ですし、アルコールとかみりんを使う通常のレシピだと難しい部分があるんです。なので、そこをクリアした形で別ブランドとしてハラール対応のそば業態をFC展開していくっていうのも一つの可能性として検討しています。たとえば、ハラール認証のめんつゆとか、アルコールを使わない調理法に切り替えたりしてね。そこまで整えば、ムスリムの方々にも楽しんでもらえるモデルになると思うので、そういう方向も今後の展開として見据えています。
ー蕎麦FCモデルに込めた想いや理念は何でしょうか?ビジネスを超え、大事にしている哲学があれば教えてください。
西島:
そもそも「十割そば」って、日本古来の栄養価の高いヌードルなんです。僕としては、もう一度この“本物の蕎麦文化”をちゃんと世界に伝えていきたいっていう想いがあるんです。しかも、蕎麦にはポリフェノールの一種で「ルチン」という栄養素も入っていて、健康面でも価値が高い。
だからこのFCモデルは、単に蕎麦を売るっていう話じゃなくて日本の文化や技術をちゃんと海外に届けるための器なんだと思ってます。
僕がいままで仕事をしてきた中で、この商品やサービスはちゃんと海外に届けるべき。と感じつつもしっかりと伝わらずに海外で売り上げが伸びないモノたちがたくさんあります。たとえば、シードで作った「わさび美(うるわ)し」というわさびについてまとめた冊子があるんですが、その際に静岡のわさび農家さんにヒアリングしたときは「世界にどれだけわさびのニーズがあるのかわからない」
という声がたくさん聞こえてきました。わさび自体の世界需要は高まっているなか、日本自体が世界需要に応えられていない事実が確実にある。このような「日本と世界の需要と供給」を手助けできるシステム作りを、構築し広めていくことが、元年堂の役割だと考えています。
ーありがとうございます。今後10年を見据えたとき、シードの事業や日本食を取り巻く海外市場はどう変化していくのか、ビジョン等あれば教えてください。
西島:
そうですね、やっぱり日本食って、これからもっともっと海外に進出していくと思うんです。日本にはまだまだ海外に受け入れられるポテンシャルを持った飲食や農産物がたくさんあるのに、日本の企業ってどっちかというとドメスティックで「海外って遠い世界だな」って感じている経営者の方もすごく多いんですよね。でも、世界的な日本食の広がりの中で、うちもその一助になれたらいいなって思っていて、私たち自身もそのお手伝いをしていきたいと思ってます。
会社としても、やっぱりシュリンクしていく日本国内だけでビジネスをしていくのはリスクがあると考えていて、海外市場をしっかり視野に入れていくのは今後すごく大事になってくると思います。特にうちのシードという会社は、中小企業を元気にすることを目的にしてるので、外貨を稼げる企業に育てていく、そういう支援を通じて「地方から世界へ」っていうモデルをつくっていきたいんです。
実際、海外に一歩出てみると、日本とは全然違う空気で、すごく活気があって、いろんな可能性が見えてきます。僕も経営者として当初は不安を持ってましたけれど、いざ動いてみると現地には仲間もいるし、すでに先にチャレンジしてる方々もたくさんいる。そういう人たちと出会って、相談しながらやっていけば、絶対に道は開けると思います。
そして僕は今後、元年堂をはじめ「地方から世界へ」をひろげるべく、10年後にはもっと多くの拠点を海外に持ってるんじゃないかなと思ってますね。今以上に海外に身を置いて仕事してるんじゃないかなって思います。
なので、ぜひ視野を広く持って、思い切ってチャレンジしてみてほしいです。やっぱり行ってみないと分からないし、やってみて初めて見える景色があるので。特に投資家の方には、「日本の飲食や文化にはまだまだ世界に通用する魅力がある」っていう視点で、ぜひ応援してもらえたら嬉しいですね。
海外進出をご検討されているものの、具体的な進め方が不明確なお客様へ。
弊社では、マレーシアにてそば店運営とテストマーケティングが可能な企画展示会スペースを運営しており、会計やマーケティング、店舗開発のスペシャリストを集めた専門チームがお客様の課題解決を支援いたします。
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