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マレーシアでお酒は出せるのか?
1.5年かけて見えた、アルコールライセンス取得のリアル

業界・業種
飲食業・日本食レストラン・海外進出支援
感じていた課題
・マレーシアでは日本食や日本産食品への関心が高まる一方で、アルコール提供に関する許認可の実態が分かりづらかった。
・法律の条文だけでは判断できず、現地自治体運用、物件条件、進め方によって難易度が大きく変わった。
・基本ビジネスライセンスや看板ライセンスまわりの申請遅延が、その後のアルコールライセンス取得にも連鎖し、全体のスケジュールに大きく影響した。
支援結果
・現地担当者と連携し、約1.5年をかけてアルコールライセンスを取得。
・ビール中心の限定的な提供から、日本酒などより広い酒類提供が可能な運営体制へ移行できた。
・これからマレーシアで飲食進出を考える企業に向けて、物件契約前に確認すべき実務論点が整理できた。
提供サービス
・マレーシア進出初期相談
・物件選定前の実務アドバイス
・飲食店立ち上げ支援
・各種ライセンス取得に向けた伴走支援
・現地調査、テストマーケティング、ローカルネットワーク接続

いま、マレーシアへの進出は確実に増えています。特に日本文化と親和性の高い日本食や日本産食品は、現地で存在感を強めています。農林水産省によると、マレーシア向け日本産農林水産物・食品の輸出額は過去10年で約3倍となり、日本食レストラン数も大きく増加しています。さらにJETROによると、2025年の日本からマレーシア向け農林水産物・食品の輸出額は約291億円で、前年比26.3%増でした。※1 ※2。
ただし、ここで大事なのは、マレーシアを日本と同じ感覚の“酒のマスマーケット”として見ないことです。2020年国勢調査では、マレーシア人口の63.5%がイスラム教徒でした。ですので、お酒を国民全体に広く売るというよりも、非ムスリム住民、外国人、観光客、そして都市部の外食需要をどう捉えるか、という見方の方が実態に近いと思います。※3。
その一方で、狙い方次第で十分に市場性はあります。2024年のマレーシアは、外国人来訪者が37,961,485人、外国人消費額はRM106.8 billionで、そのうちFood & BeveragesだけでRM17,188.92 millionありました。日本からの来訪者も367,182人です。つまり、観光・出張・都市部立地・日本食との相性を踏まえれば、アルコール、とりわけ日本酒や日本系アルコールを提案できる余地は十分にあると言えます。※4。
実際、日本酒にも前向きな材料があります。JFOODOの2024年度プロモーションでは、マレーシアの対象10店舗のうち8店舗で日本酒売上が前年同期比20%以上増加しました。さらに同資料では、マレーシア10店舗でのプロモーション結果として日本酒売上前年同期比40%増という実績も示されています。参加店舗ベースの結果ではありますが、売り方と客層が合えば、日本酒はしっかり動くことが見えてきます。※5。
ただ、今日の本題は“売れるかどうか”だけではありません。もっと大事なのは、“そもそも出せるのか”です。マレーシアでは、酒類の小売販売は店内飲用でも持ち帰りでも原則ライセンス制で、Excise Act 1976では店内提供に関係する public house licence と beer house licence、持ち帰り向けの retail shop licence などが定められています。さらに Licensing Board にはライセンス付与や条件付与の裁量があり、拒否・取消の理由を示さないことも法律上認められています。※6。
クアラルンプールでは、DBKLの Department of Licensing and Business Development が liquor licenses を所管しています。また、DBKLの事業ライセンス関連ページでは、酒類ガイドラインや eLesen への導線がマレー語ベースで案内されています。※7。
つまりこれは、“法律を知っていれば進められる話”ではなく、物件、業態、自治体運用、段取りまで含めて考えないといけないテーマです。今回は、その建前だけではなく、私たちのチームが現地担当者と一緒に1.5年かけて、どうやってアルコールライセンスを取得したのか。なぜそんなに時間がかかったのか。どこがボトルネックになるのか。出店前に何を確認すべきなのか。これからマレーシアで飲食進出を考える方が、最初にどこへ相談すべきかまで含めて、ルールと実態の両方から見ていきたいと思います。

Culture Link Malaysia. Sdn.Bhd

元年堂の運営母体。マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供する元年堂を運営しつつ、日本企業やアーティストなど日本文化、日本の作品を展示する“ギャラリースペース”を併設。海外進出支援やテストマーケティングのサポートを行っている。

▼元年堂マレーシア
クアラルンプールで日本食を提供する拠点。飲食店としての運営だけでなく、日本文化や日本商品の発信、現地での反応検証、海外展開の実証の場としての役割も担っている。

▼現地担当者(申請担当)
マレーシアにおける各種ライセンス申請、行政窓口との調整、必要書類の進行管理を担う担当者。政府側の窓口やガイドラインはマレー語ベースで動く部分が多く、実態としては、書類を出すだけではなく、問い合わせ、差し戻し対応、確認、折衝まで含めた専属チームでの伴走がないと、スムーズに進みにくい領域でもある。※8。

そもそも、マレーシアの飲食店でお酒は出せるのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
まず本当に基本のところからなんですが、マレーシアってイスラム圏のイメージが強いじゃないですか。なので最初に整理したいのは、そもそも飲食店でお酒は出せるのか、という点です。

現地担当者:
結論から言うと、出せます。全面的に禁止されているわけではありません。
ただし自由に出せるわけではなくて、酒類の小売販売は原則ライセンス制です。店内提供であれば public house licence や beer house licence の考え方があり、クアラルンプールでは DBKL のライセンス部門も関わってきます。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
なるほど。“出せない国”ではないけれど、“簡単に出せる国”でもない、ということですね。

現地担当者:
そうですね。特に実務は、法律の条文を読むだけでは進めにくいです。
行政窓口はマレー語ベースで進む場面も多いですし、必要書類を出して終わりではなく、その後の確認や差し戻し対応、各所との調整もあります。だから実態としては、申請を回せる専属チームがないと、かなり進めづらいと思います。

私たちは、なぜ1.5年もかかったのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
正直、最初はもっと早く取れるんじゃないかと思っていました。でも実際には1.5年かかりました。この時間がかかった理由って、どう整理できますか。

現地担当者:
一番大きいのは、アルコールライセンス単体の話ではなかったことですね。
店舗運営に必要なビジネスライセンスや看板ライセンスが先にあって、その進み具合が後ろにも影響しました。ひとつ止まると、次の申請にも波及していくんです。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
つまり、アルコールライセンスだけ切り出して見ても駄目で、店舗全体の立ち上げの流れの中で見ないといけない、ということですよね。

現地担当者:
その通りです。今回も、先行するライセンス側での調整に時間がかかったことが、結果としてアルコールライセンスの遅れにもつながりました。
申請を出せばすぐ終わるというより、各所の確認、承認の順番、最終判断のタイミングまで含めて見ないといけないので、どうしても体感より長くなりやすいです。

法律の建前と、現場のリアルはどう違うのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
ここが、たぶん読者の方が一番知りたいところだと思うんですが、法律の建前と、現場のリアルって、どこが違いますか。

現地担当者:
法律では、ライセンスの種類や枠組みは整理されています。
ただ、実務になると、どの物件なのか、どういう業態なのか、どのエリアなのか、どの順番で進めるのかで、難易度がかなり変わります。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
条文上は整理されていても、実際には“その案件で通るのか”が別問題なんですね。

現地担当者:
そうです。なので、一般論だけで「大丈夫です」と言い切るのは危ないです。
同じ飲食店でも、物件やエリアが違えば進み方も変わりますし、行政とのやり取りの進め方でも差が出ます。

物件契約の前に、何を見ないと危ないのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
じゃあ、これから出店する企業が一番気をつけるべきことって、やっぱり物件ですか。

現地担当者:
かなり大きいです。
売上が立ちそうか、通行量があるか、というマーケット視点だけで物件を見ると、後から苦しくなることがあります。アルコール提供まで考えるなら、そのエリアの実態や周辺環境まで含めて見た方がいいです。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
物件を見に行くと、どうしても“売れそうか”に目がいきますよね。でもマレーシアでは、“許認可が降りるか!”も同じくらい大事だと。

現地担当者:
そうですね。
あと、周囲にアルコール提供をしている店舗があるかどうかを見るのも、ひとつのヒントになります。もちろんそれだけで判断はできませんが、現地の空気感をつかむ材料にはなります。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
なるほど。売上ポテンシャルだけじゃなくて、エリアの実態も見ないといけないわけですね。

現地担当者:
はい。だからこそ、物件契約の前に一度相談をもらった方が、結果的に早いし、無駄なコストも減らせます。

お酒の需要は、本当にあるのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
一方で、そもそもマレーシアでお酒の需要ってあるのか、と思う方も多いと思います。実際どうですか。

現地担当者:
マス市場として広く取る、というよりは、場所と客層を見て取る市場ですね。
非ムスリムの方、外国人、観光客、駐在員、そういった層がいるエリアでは、しっかり需要があります。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
つまり、“マレーシア人全体が飲む国か”ではなくて、“どの立地で誰を取るか”で見ないといけないということですね。

現地担当者:
そうです。クアラルンプールのような都市部は、その意味では勝負しやすい面もあります。
逆に言うと、アルコール需要が薄いエリアに出しても、当然ながら難しいです。

日本酒は、まだ伸びしろがあるのか?

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
日本食の進出が増える中で、日本酒の可能性も気になります。このあたりはどう見ていますか。

現地担当者:
正直に言うと、まだ日本酒が広く浸透しているとは言いにくいです。
ただ、だからこそ余地があります。きちんと説明できる場、売り方、価格の見せ方、体験の作り方があれば、これから育っていく余地は十分あると思います。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
置けば売れる、というよりは、ちゃんと伝えないといけない商材なんですね。

現地担当者:
そうですね。レストラン、輸入業者、現場スタッフ、それぞれがちゃんとしてこそ、日本酒の価値が伝わる。
まだその土台が発展途上だからこそ、先に入る意味があるとも言えます。

だからこそ、申請を回せる“現地担当者”が重要になる

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
今回の経験を通して痛感したのは、やっぱり自力だけで進めるのは難しい、ということでした。この点はいかがですか。

現地担当者:
難しいと思います。
もちろん、自分たちで全部やること自体は不可能ではないですが、間違えるとかなり遠回りになります。だから重要なのは、“やるかやらないか”より、“誰とやるか”ですね。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
まさにそこですね。今回も、途中で進め方や申請側の体制を見直したことで、ようやく流れが前に進んだ感覚がありました。

現地担当者:
はい。
現地担当者の役割は、単に書類を出すことではありません。窓口はマレー語ベースで進みますし、申請後も確認、差し戻し対応、進行管理、関係機関とのやり取りがあります。
だから実務上は、政府窓口に通じた専属チームで回せるかどうかが、スピードにも結果にも影響しやすいです。

これからマレーシアで飲食進出を考える企業へ

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
最後に、これからマレーシアで飲食店を出したい、しかもアルコール提供も視野に入れている、という企業に向けて、アドバイスをお願いします。

現地担当者:
相談のタイミングは、できるだけ早い方がいいです。
理想を言えば、物件を決める前、もっと言えば、進出構想を考え始めた段階ですね。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
やっぱり、店を作ってからでは遅い、と。

現地担当者:
そうですね。
看板、ビジネスライセンス、店舗運営、アルコール提供、場合によってはその先の許認可まで、全部つながっています。
だから最初の設計でつまずかないことが、結果として一番重要です。

CULTURE LINK MALAYSIA.CEO 西島:
ありがとうございます。
今回、私たち自身が1.5年かけてようやく見えたのは、マレーシアでアルコールを出すというのは、単に“酒を置く”話ではなく、進出設計そのものの話だということでした。
市場はある。でも、誰に、どこで、どう出すか。そして、その前提となる許認可をどう組み立てるか。そこまで含めて初めて、現地で勝負できる。そう実感しています。

※出典・補記

※1
農林水産省
「マレーシアは、日本産農林水産物・食品の輸出額実績が過去10年で約3倍となり、日本食レストラン数も大きく増加」
URL:https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/chiiki/240507_20.html

※2
JETRO
「2025年における日本からマレーシア向けの農林水産物・食品の輸出額は約291億円、前年比26.3%増加」
URL:https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/02/5ffcaeb8f8346eed.html

※3
マレーシア統計局(DOSM)2020年国勢調査
URL:https://www.dosm.gov.my/uploads/publications/20221020150523.pdf

※4
Tourism Malaysia「Malaysia Tourism Statistics in Brief 2024」
URL:https://data.tourism.gov.my/frontend/pdf/New_Final_Malaysia%20Tourism%20Statistics%20in%20Brief%202024.pdf

※5
JFOODO「2024年度 日本酒プロモーション実施報告」
URL:https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfoodo/pdf/activities/sake/2024_sake.pdf

※6
酒類小売ライセンスの法的根拠は Excise Act 1976
URL:https://www.customs.gov.my/images/06-prosedur/english/eksais/akta/excise-act-1976.pdf

※7
クアラルンプール市(DBKL)の Department of Licensing and Business Development は liquor licenses を扱う主管部署として案内されています
URL:https://www.dbkl.gov.my/en/departments/jabatan-pelesenan-dan-pembangunan-perniagaan
URL:https://www.dbkl.gov.my/lesen-perniagaan/garis-panduan-lesen-peniagaan

※8
「政府窓口がマレー語対応なので、専属チームを活用しないと実態はなかなか通りづらい」という部分は、法令そのものの要件ではなく、今回の現地実務とインタビューに基づく補記です。
補足根拠として、DBKL側のライセンス案内・ガイドラインの公開導線はマレー語ベースで構成されています。記事本文では、この制度環境の上で、実務上はマレー語対応や差し戻し対応を含む進行管理が重要、という意味で用いています。 

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