世界は“約3人に1人がムスリム”へ。
ハラール対応が広げる、輸出とインバウンド土産の可能性
【ハラールの窓口】専属コンサルタント CULTURE LINK MALAYSIA代表 野口 亮 様
CULTURELINK MALAYSIAが提供する「ハラールの窓口」は、ハラール認証取得そのものをゴールにするのではなく、認証前の市場調査・売り先設計から、現地販路開拓、商談支援、OEM活用、輸出実務までを一気通貫で伴走するサービスです。
ハラール市場では、認証を取得しても「誰に、どこで、どう売るか」が設計されていなければ、事業成果につながりません。
本記事では、CULTURE LINK MALAYSIA代表であり、【ハラールの窓口】専属コンサルタントでもある野口が、世界のハラール市場の可能性、日本企業が取り組むべきハラール対応、そして「輸出」と「インバウンド土産」の両面から見た今後のマーケットについて解説します。
登場人物
野口 亮(RYO NOGUCHI)
【ハラールの窓口】専属コンサルタント
CULTURE LINK MALAYSIA SDN.BHD. COO/代表取締役社長

CULTURE LINK MALAYSIAは、マレーシア・クアラルンプールで十割そばを提供する「元年堂」を運営しながら、日本文化や日本のプロダクトを現地で紹介する企画展示スペースも展開。海外進出支援、現地テストマーケティング、販路開拓、ローカライズ支援などを行っている。野口は同社代表として、現地事業の運営と日本企業のASEAN展開支援に取り組んでいる。
【ハラールの窓口】は、ハラール認証取得そのものをゴールにするのではなく、認証前の市場調査・売り先設計から、現地販路開拓、商談支援、OEM活用、輸出実務までを一気通貫で伴走するサービスです。
世界20億人超のムスリム市場は、日本企業にとって大きな成長機会
ーまず、なぜ今、日本企業にとってハラール対応が重要なのでしょうか。
野口:
私は、ハラール対応を単なる「宗教対応」や「認証取得の手続き」として見る時代は終わりつつあると感じています。
もちろん、イスラム教のルールを正しく理解し、ムスリムの方々が安心して商品を選べるようにすることが大前提です。ただ、ビジネスの視点で見ると、ハラール対応は日本企業が新しい市場に入っていくための“共通言語”でもあります。
世界のムスリム人口は約20億人に達しており、2020年時点で世界人口の25.6%を占めています。さらに2060年には31.1%、つまり約3人に1人に近い水準まで拡大すると予測されています。
市場規模で見ても、ハラール関連市場は非常に大きな成長領域です。DinarStandardのレポートでは、イスラム経済の主要6消費分野は2024年時点で約416兆円、2029年には約570兆円へ拡大するとされています。食品分野だけでも約245兆円から約330兆円へ、ムスリムフレンドリー旅行市場も約40兆円から約68兆円へ伸びる見込みです。
日本の商品は、品質、安全性、パッケージデザイン、ストーリー性の面で海外から高く評価されています。しかし、ムスリム市場に届けるためには、「良い商品であること」に加えて、「安心して買えること」「宗教的に問題がないこと」を示す必要があります。そこに、ハラール対応の大きな意味があります。
日本のハラール対応店舗は、まだ圧倒的に少ない
ー日本国内の受け入れ環境は、どの程度整っているのでしょうか。
野口:
日本でもハラール対応やムスリムフレンドリー対応への関心は高まっていますが、実際の対応店舗数はまだ非常に限られています。
公的統計として全国のハラール対応飲食店数が一元管理されているわけではないため、ここでは公開されている検索サイト・研究データを参考値として見ていきます。
2024年2月時点で、日本最大級のムスリム向けレストラン検索サイト「ハラールグルメジャパン」の検索結果を分析した研究では、日本全国のハラル認証レストランは162店、ハラル料理の取り扱いがある店舗は655店とされています。
また、2025年3月末時点では、Halal Gourmet Japanの掲載店舗数は775店まで増えており、年内には1,000店を超える見込みと発表されています。対応店舗は増えつつありますが、全国規模で見ると、まだ非常に少ないのが現状です。
令和3年経済センサスによると、日本全国の飲食店事業所数は499,193店です。これを基準に計算すると、ハラル認証レストラン162店は全国飲食店の約0.03%、ハラル料理の取り扱いがある655店でも約0.13%に過ぎません。最新の掲載店舗数775店を基準にしても、全国飲食店の約0.16%という水準です。
2060年には、世界人口の31.1%がムスリムになると予測されています。一方、日本のハラル認証レストランは全国飲食店の約0.03%、ハラル料理取扱店まで広げても約0.13%。世界市場の成長に対して、日本の受け入れ体制にはまだ大きな余白があります。
この数字は、日本のハラール対応が遅れているという見方もできますが、逆に言えば、今から取り組む企業や地域には大きなチャンスがあるということです。
ハラール市場は「海外輸出」だけではない。日本国内のインバウンド需要にも直結する
ー日本企業がハラール対応を考える際、海外輸出だけをイメージする企業も多いと思います。日本国内のインバウンド市場にも関係するのでしょうか。
野口:
非常に関係があります。むしろ、これからは「海外に売るためのハラール」と「日本に来た観光客に選ばれるためのハラール」の両方を考えるべきだと思っています。
日本では訪日観光客が大きく増えており、2025年の年間訪日外客数は4,268万3,600人と、年間で過去最多となりました。東南アジアでは、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなども年間累計で過去最高を記録しています。
さらに観光庁の速報では、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円。そのうち買物代は27.0%、金額にして2兆5,490億円を占めています。つまり、訪日客にとって「買って帰るもの」は、宿泊や飲食と並ぶ大きな消費分野です。
ここに、ムスリム旅行者向けのお土産市場の可能性があります。
日本のお菓子、抹茶商品、調味料、レトルト食品、麺類、地域の名産品、化粧品などは、お土産として非常に魅力があります。しかし、原材料や製造工程に不安があると、ムスリムの方は購入をためらいます。逆に、ハラール対応や成分表示が明確であれば、「自分でも食べられる」「家族や友人にも安心して渡せる」商品になります。
ムスリム旅行者は世界的に増加。日本の受け入れ環境も変わり始めている
ームスリム旅行者の市場は、今後どのように伸びていくのでしょうか。
野口:
ムスリム旅行者の市場は、世界的にも非常に成長が期待されています。MastercardとCrescentRatingの「Global Muslim Travel Index 2025」によると、国際ムスリム旅行者数は2024年に1億7,600万人に達し、2030年には2億4,500万人まで増加すると予測されています。旅行消費額も2030年には約37兆円に達する見込みです。
日本でも、ムスリム旅行者向けの環境整備は少しずつ進んでいます。JNTOはムスリム旅行者向けに、モスクや礼拝施設、ムスリムフレンドリーな飲食店、宿泊施設などを案内するガイドを整備しています。
これは、食品メーカーや小売業にとっても重要な変化です。観光地、空港、ホテル、百貨店、道の駅、地域物産店などで、ムスリム観光客が安心して買える商品を用意できるかどうかは、今後のインバウンド消費を取り込むうえで大きな差になります。
「豚とアルコールを使っていない」だけでは、ハラール対応とは言えない
ー日本企業がハラール対応で誤解しやすい点はありますか。
野口:
一番多い誤解は、「豚肉とアルコールを使っていなければハラールになる」という考え方です。これは入口としては間違っていませんが、実務上はそれだけでは不十分です。
ハラールは、原材料だけでなく、製造工程、保管方法、輸送、包装、表示、場合によってはサプライチェーン全体が関係します。食品以外にも、化粧品、医薬品、日用品、物流、金融サービスなどに概念が広がっており、単なる「食品成分のチェック」ではなく、事業全体の設計に関わるテーマです。
例えば、お菓子であればゼラチン、乳化剤、ショートニング、香料、酵素、アルコール抽出成分などが問題になることがあります。調味料であれば、みりん、料理酒、醤油、味噌、だし、エキス類なども確認が必要です。日本では当たり前に使っている素材でも、ムスリム市場では慎重に見られるものがあります。
また、パッケージや商品名も重要です。ハラール対応は「中身だけ」ではなく、消費者が店頭で見たときに安心できるかどうかも大切です。特にお土産商品では、言語表示、成分表示、認証マークの有無、食べ方の説明、ギフトとしての見せ方まで含めて設計する必要があります。

ハラール対応は「認証を取ること」ではなく「売れる商品設計」から始める
ーハラール対応を検討する企業は、最初に何から始めるべきでしょうか。
野口:
まずは、「どこの誰に売るのか」を決めることです。これは私たちが常にお伝えしているポイントです。
認証取得はとても重要ですが、認証を取ること自体が目的になってしまうと、投資対効果が合わないことがあります。
例えば、同じお菓子でも、マレーシアのスーパーで売るのか、日本国内の空港で訪日ムスリム観光客向けに売るのか、インドネシア市場を狙うのか、中東の高級スーパーを狙うのかで、必要な認証、価格帯、パッケージ、味、内容量、販路が変わります。
私は、ハラール対応を進める際には、次の順番が大事だと考えています。
まず、ターゲット市場を決める。次に、その市場で本当にニーズがあるかを確認する。次に、原材料や製造工程を棚卸しして、ハラール化できるかを確認する。そのうえで、認証を取るのか、OEMで現地製造するのか、日本国内でムスリムフレンドリー商品として展開するのかを判断する。
つまり、ハラール対応は「認証ありき」ではなく、「売り先ありき」で考えるべきです。
ハラール認証は単なる手続きではなく、原材料の選定、製造工程の管理、パッケージ設計など、事業全体に関わる戦略テーマです。「認証を取れば売れる」のではなく、認証取得を事業計画の中にどう位置づけるかが、海外展開の成功を左右します。
インバウンド土産では「安心して買える表示」が大きな価値になる
ー訪日ムスリム観光客向けのお土産では、どのような商品に可能性がありますか。
野口:
可能性がある商品は非常に多いと思います。特に、日本らしさがあり、持ち帰りやすく、家族や友人に配りやすい商品は相性が良いです。
例えば、抹茶菓子、せんべい、和スイーツ、ドライフルーツ、海苔、だし、調味料、即席麺、レトルト食品、地域限定のお菓子などは、お土産として魅力があります。食品以外では、化粧品、スキンケア、入浴剤、日用品なども可能性があります。
DinarStandardのレポートでも、ハラール化粧品市場は2024年の約15兆円から2029年には約20兆円へ、ハラール医薬品市場は約18兆円から約23兆円へ拡大すると予測されています。食品以外にも、ハラール対応の可能性は広がっています。
ただし、重要なのは「ムスリムの方が自分で判断できる情報を出すこと」です。日本語だけの原材料表示では、外国人旅行者には分かりません。英語、マレー語、インドネシア語などで、原材料、アレルゲン、アルコールの有無、動物由来成分の有無、製造上の注意点を分かりやすく伝えることが必要です。
特に観光地では、購入判断にかけられる時間が短いです。店頭で一瞬見て「これは安心して買える」と分かるパッケージやPOPがあるだけで、購買率は大きく変わると思います。
マレーシアは、ハラール市場への第一歩として非常に相性が良い
ーマレーシアを起点にハラール対応を進めるメリットは何でしょうか。
野口:
マレーシアは、ハラール市場への入り口として非常に相性が良い国です。理由は大きく3つあります。
一つ目は、国としてハラール制度が整っていることです。マレーシアはハラール制度や認証体制の整備が進んでおり、DinarStandardのGlobal Islamic Economy Indicatorでも、マレーシアはイスラム経済エコシステムの上位国として評価されています。
二つ目は、ムスリム消費者と非ムスリム消費者が共存する多民族国家であることです。マレー系、華人系、インド系、外国人居住者が同じ市場に存在しているため、日本企業にとっては、ハラール対応商品がどの層に受け入れられるのかを検証しやすい環境があります。
三つ目は、テストマーケティングと販路開拓がしやすいことです。マレーシアで売れる形をつくることができれば、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、中東など、次の展開も考えやすくなります。
いきなり巨大市場に挑むのではなく、まずはマレーシアで商品力、価格、パッケージ、売り方を磨く。そのうえで次の国へ進むのが、現実的で失敗しにくい進め方だと思います。

日本企業に必要なのは「ハラール化できるか」より「事業として成立するか」の視点
ー日本企業がハラール市場に挑戦する際、特に意識すべきことは何でしょうか。
野口:
「この商品はハラール化できますか?」という相談をよくいただきます。もちろん、原材料や製造工程を見れば、ハラール対応の難易度はある程度判断できます。
しかし、私がそれ以上に大事だと思っているのは、「ハラール化した後に、事業として成立するか」です。
例えば、認証取得にコストをかけても、現地で価格が合わなければ売れません。日本から輸出すると、物流費、関税、マージン、為替の影響で価格が上がります。高級品として売るのか、一般消費者向けに売るのか、業務用として飲食店に入れるのかで、戦略はまったく変わります。
場合によっては、日本で製造して輸出するよりも、マレーシアのハラール対応工場でOEM製造した方が良いこともあります。日本のレシピや品質管理の考え方を活かしながら、現地の原材料と製造体制で価格を抑える。「Made in Japan」だけではなく、「Made by Japan」という考え方です。
これは、海外展開だけでなく、将来的に日本国内のインバウンド向け商品開発にもつながります。現地でムスリム消費者の反応を確認し、その知見を日本のお土産商品や観光地商品に反映することもできます。
ハラール対応は、日本の地域産品にもチャンスを生む
ー地方の食品メーカーや地域産品にも可能性はありますか。
野口:
大いにあります。むしろ、地方企業や地域産品こそ、ハラール対応によって新しい販路が生まれる可能性があると思っています。
日本の地方には、海外の方にとって魅力的な商品がたくさんあります。お茶、菓子、麺、味噌、醤油、だし、海産物加工品、果物加工品、伝統工芸と組み合わせたギフト商品などです。ただ、国内市場だけを見ていると、人口減少や消費の伸び悩みの影響を受けやすくなります。
一方で、インバウンド観光客は「その地域でしか買えないもの」「日本らしいもの」「家族に渡せるもの」を求めています。そこにハラール対応が加わると、ムスリム観光客にとっても選びやすい商品になります。
観光庁は2030年の目標として、訪日外国人旅行者数6,000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を掲げつつ、地方誘客をより一層進める方針を示しています。 その意味でも、地方の土産品や地域ブランドがムスリム対応を進めることは、地域経済にとっても大きな意味があると思います。
最初の一歩は「自社商品がどの市場に合うか」を知ること
ーハラール対応に関心はあるものの、何から始めればよいか分からない企業も多いと思います。
野口:
まずは、自社の商品がどの市場に合うのかを知ることです。
マレーシアなのか、インドネシアなのか、中東なのか、あるいは日本国内のインバウンド向けなのか。それによって取るべきルートは変わります。
すべての商品が、いきなり認証を取得する必要があるわけではありません。まずは市場調査やテスト販売を行い、ニーズがあるかを確認する。次に、原材料や製造工程を確認し、どこまで対応できるかを把握する。そのうえで、認証取得、OEM、パッケージ変更、販路開拓などを組み合わせていくべきです。
【ハラールの窓口】では、認証取得だけをゴールにするのではなく、認証前の市場調査、売り先設計、現地販路開拓、商談支援、OEM活用、輸出実務まで一気通貫で伴走しています。
ハラール対応は専門的な領域ですが、順番を間違えなければ、日本企業にとって大きなチャンスになります。
ハラール対応は「制限」ではなく、日本の商品を世界に届けるための入口
ー最後に、ハラール市場への挑戦を考えている日本企業へメッセージをお願いします。
野口:
ハラール対応と聞くと、「難しそう」「制限が多そう」「自社には関係ない」と感じる企業様も多いと思います。しかし、私はハラール対応を“制限”ではなく、“選ばれるための入口”だと考えています。
ムスリムの方々にとって、安心して食べられる、安心して使えるということは、とても大切です。その安心を丁寧につくることができれば、日本の商品はもっと多くの人に届くはずです。
これからのハラール市場は、海外輸出だけではありません。日本に来るムスリム観光客に向けたお土産、飲食、宿泊、地域産品、体験型観光にも広がっていきます。日本の商品や地域の魅力を、ムスリムの方々にも安心して楽しんでもらう。そのための第一歩が、ハラール対応です。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは、自社の商品がどの市場に合うのか、何を変えればムスリムの方に届けられるのかを知ることから始めてください。
私たち【ハラールの窓口】が、市場調査から販路設計、認証、OEM、輸出、インバウンド向け商品づくりまで、現地目線で伴走します。
日本の商品には、まだ世界に届けきれていない価値がたくさんあります。ハラール対応を通じて、その価値を一緒に広げていきましょう。
海外進出、ハラール対応、インバウンド向け商品開発をご検討中のお客様へ。
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【注記】
・円換算について: 本記事内の円換算は、読みやすさを優先し、1米ドル=160円で概算換算しています。為替変動により実際の金額は変動します。
・掲載データについて: 日本国内のハラール対応店舗数は、公的統計ではなく、公開されている検索サイト掲載情報および研究データをもとにした参考値です。

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【ハラールの窓口】専属コンサルタント CULTURE LINK MALAYSIA代表 野口 亮

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